「悲しかった思い出ほど憶えてる」

 


あれからどれぐらい経ったのだろうか。

故郷へ帰ってから数年、彼女には一度も逢っていなかった。

それがどういうめぐり合わせか今、こうして彼女と向かい合っている。



「変わってないね」「痩せたね」



表面的な会話が場を繕う。



しばらく無駄話をした。そうするうちに飲み屋も次第に混んで来た。

酒も入り自然と話は昔のことが中心となる。

そうなれば二人の間の出来事がクローズアップされるのは確実だった。



「じゃあそろそろ爆弾行ってみようか」



この友人の一声を皮切りに悪夢の寸言ラッシュが始まった。



彼女「あれにはホントに傷ついたね。忘れない」

俺「え、何だっけそれ。憶えてない」

彼女「何で憶えてないの!?あれはひどかったよ」

俺「そんなんあったっけ?それよりあの一言の方が俺はショックだったよ」

彼女「それ全然憶えてない」



お互いに傷付いた場所が違っていた。

数年たって始めて分かった真実か。男女の見方は確実に異なるのだ。



勢いを増す言葉の暴力。炎は燃え盛っていった。

こういう場になって初めて次から次へと色々な出来事が思い出される。

フラッシュバックの連続の中、あの時言えなかった文句が今言える。




人段落付いた時友人はこう言った。



「傷ついた話ばっかりだね」





ああそうだ、今わかった。


『悲しかった思い出ほど憶えてる』。







若さゆえの回り道。

終わった。





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