「思い出を海に捨ててきました」


今でも車に乗り込む度に思い出したりもする。

フロントガラスの左上に揺れていた小さな記憶のこと。




「それ」を貰ったのは大学1年の頃だった。

”彼女”はスキー教室のお土産だと言って小さなアクセサリをくれた。

買ったばかりの愛車に「それ」を取り付けた彼は少し嬉しげに、

いつまでもそれを眺めていた。



季節は移り、しばらくして彼女は居なくなった。

アクセサリを外すのは何だか悪いような気がして、

どうしても許せない自分を忘れてしまうような気がして、

相変わらずアクセサリは車の片隅で揺れていた。





あれから数年。


僕は上越の海辺に立っていた。



「そろそろ要らないんじゃないかな」

大学も卒業し、就職もした。

いつまでも、たとえ形だけでも過去を引きずっていてはいけない、って。

そして思い出を裁ち切りにこの海へ来た訳で...。



風景の一部になっていたアクセサリを少し強引に引き剥がし、僕は海へ走った。

後ろから応援の声。





堤防に駆け登り、もうためらうことなく海へ!





弧を描き、音もなく波間に消えていった思い出。

夕日は綺麗だった。



「思い出を海に捨ててきました」

報告する僕。もう、次の時代は始まっている。




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